初の企画盤。シングル「One in a million」あたりから、他のジャニーズ勢に先駆けてオントレンドなダンスミュージックに励んできた山下だが、踊れるナンバーにここまで一心にこだわり抜いた作品は、後にも先にもこの作品だけかも。そもそも、ジャニーズのアーティストがコンセプトアルバムを発表すること自体が異例なわけで、本作が高まるモチベーションの産物であることを聴く前からひしひしと感じていた。
本来の持ち味にあたる道化的なアイドルアプローチはもちろん皆無に等しく(強いて挙げるなら「HELLO」がその類いか)、あくまでも最新鋭のクラブサウンドとそれに食らいつく山下の構図を潔く描写。中にはおよそ玄人向けの楽曲も散見されるものの、自身のパブリックイメージさえ振り切った一本気な健闘ぶりが生粋のファンにとっては愛おしく映るだろうし、何より本作は、偏に良質な音楽を求めるリスナーにもブッ刺さるほどの軽妙な可能性を秘めている点が最大のミソとなっている。
特筆すべきはやはり、山P作品恒例となっている参加クリエイターの豪華さと、その組み合わせ。シンガーソングライターの秦基博とヒップホップ界隈を賑わせるBACH LOGICが相見えたOPチューン「HELLO」をはじめ、大沢伸一が高次元なエレクトロを構築した「Dress Code:」では、作詞ではあるものの久しぶりに山本領平(Ryohei)の名前が確認されるなど、その筋の名うてたちが奔放なケミストリーを発揮。ほかにもPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースでお馴染みの中田ヤスタカや、まさしく今ダンスミュージックで注目を集めているSTYら、すでに過去作で携わったメンツがこぞって参加を果たしており、あまりにも贅沢な様相を呈している。そんな彼らが一堂に会して己の業を注ぎ込んでいるという意味でも、本作のタイトルにもなっている”遊”の精神は見事に全うされていると言える。
今後はおそらく、既定路線の一つであるアイドル歌謡も再び併用した上で活動していくことだろうが、いずれにせよこうした気合の入った作品を一度でも生み落としたという事実は、山下のポテンシャルを紐解くための重要な試金石となるに違いない。ジャニーズから独立した赤西仁(JIN AKANISHI)がUSマナーに則ったシングルをリリースしたりと、アイドル出身者によるアーティスティックな稼働が日々加熱しつつある昨今なだけに、本作がその決定打として広く受け入れられることを慎ましくも願う今日この頃。
山下智久『遊』
2014年8月20日発売
<収録曲>
1.HELLO
2.PARTY’S ON
3.Mysterious
4.Moon Disco
5.Back to the dance floor
6.Dress Code:
7.LET IT GO