めでたくオリコン週間ランキング5位を奪取した、三浦大知の4thアルバム。初のTOP10入りを果たした前作『D.M.』を皮切りに熱狂的なファンが急増。以降はまさしく面目躍如の活躍に突き動かされていると言っても良い三浦大知だが、本作を聴いて思うのは、結局のところ”踊らせる”のは彼の方が何枚も上手だった、ということ。ワールドワイドな作風を取り入れた楽曲群は器用なまでにメジャー感も加速させ、エンターテイナー:三浦大知の魅力を時に分かりやすく、時に奥床しく伝えにかかる。経緯こそ異なるものの、ポップスターならではの妥協のない精神をふんだんに味わえるあたり、事務所の先輩:安室奈美恵が革新を起こした一枚『Queen of Hip-Pop』にも通じる先鋭度合い。この内容ならいつどこで彼が寵児化しても、誰も文句は言えないだろう。
「I’m On Fire」のビデオにも表れているとおり、本作は「次元の突出」が大きなテーマ。理屈じゃない音楽を自己紹介とばかりに体現した前作に対し、”理屈じゃない音楽の概念すら持ち前の身軽さで壊してしまおう”と気概を滾らせた本作は、まったく似て非なるモチーフとなっている。その新たな決意表明が、勇壮この上ない「Can You See Our Flag Wavin’ In The Sky?」や「I’m On Fire」によって、序盤から逞しく歌い上げられていく。「Baby Just Time」のようなフューチャリスティック志向のR&Bや、粛然たるピアノ・バラード「Listen To My Heartbeat」といった意欲作もバランス良く立ち並ぶものの、何だかんだで彼がライフワークとするダンス・ナンバーがずば抜けたインパクトの核を誇っているのは自明の理。さらに今回の場合、邁進を貫く作り手側の意思表示もリリックによって明確に提示されているため、まるで大型ビジョン(二次元)から本人が飛び出してきた(三次元)かのような溌剌とした迫力にも恵まれている。主体性あってこその見事な構成に、「これからも自由に大知の音楽に身を委ねよう」と心に決めたファンは筆者だけではないはず。
エンターテインメントの定義は人によって様々だが、彼は先述の安室奈美恵同様、自らが生けるエンターテインメントとして縦横無尽にはためける存在であることを本作で伝えている。それも、恐ろしいほどピュアに。なぜ、こんなにも真っ直ぐなのか、本当のところは分からないが、この得体の知れない頼もしさこそ、彼の音楽がすでに理屈では到底束ねられない次元へと移行している裏付けなのだと思う。
<小コラム>三浦大知『The Entertainer』を名盤たらしめたプロデューサーたち
日本のR&Bシーンを支えるプロデューサーたちが多数参加している『The Entertainer』。海外のクリエイターをメインに配置して楽曲制作するアーティストも多くなってきている昨今、大知サイドの”日本産”にこだわった采配はファンやフォロワーはもちろん、日本の音楽シーンそのものに希望をもたらしているに違いない。今日はそんな輝かしいプランのために招集されたジャパニーズ・クリエイターたちをご紹介。最強の裏方勢をくまなくチェックし、三浦大知が呈する高水準な世界を今一度紐解いてみては。
Nao’ymt
R&Bユニット:Jineのメンバーとしても絶大な人気を誇るトップ・クリエイター。「Inside Your Head」「Who’s The Man」「Black Hole」など、これまで大知に数多くのフック曲を提供している。本作には、冒頭の「Can You See Our Flag Wavin’ In The Sky?」とエンドロール代わりのスロウ「all converge on “the one”」の二曲で参加。神秘的で和情緒あふれるサウンドを生み出す彼に、大知史上もっとも相性の良いクリエイターとの呼び声も多数。
T.Kura/michico
R&Bプロジェクト:Giant Swingの総帥であるT.Kuraと、あの手この手でパンチラインを弾き出すmichicoの夫妻コンビ。大知作品デビューは2012年末のシングル「Right Now」と比較的最近だが、安室奈美恵、EXILEといった錚々たる布陣を手がけてきたキャリアを武器に、本作では実質的なリード曲「I’m On Fire」を担当している。時代を見極める鋭い審美眼を持ち、実験的ながらもクールにサウンドを昇華する仕事ぶりは毎度ながらお見事。
UTA
2013年もAIにJASMINEにと各所で猛威をふるった当代のエース。2ndアルバム「Who’s The Man」の「Crazy」、前作「D.M.」の「Love is like a bass line」など大知との名対峙も多い彼だが、本作収録の「Blow You Away!」もまた格別。アグレッシブな筆致に定評のあるカミカオルとのセッションにより、ドラムロールの躍動感を携えた奇想天外なダンス・ナンバーを提案している。また、配信シングルとして昨年発表された「Elevator」も彼の手によるもの。
T-SK
宏実、CIMBAといったインディーズの猛者から、安室奈美恵、倖田來未などのポップスターの楽曲まで送り出す実力派オールラウンダー。オーストラリアのNERVOらと共に、クリエイター集団「FUTURE UNISON」の一員として大知の最新シングル「GO FOR IT」に関与。そこから飛ぶ鳥を落とす勢いで、本作では「Listen To My Heartbeat」など参加クリエイター中最多の四曲を手がけた。今後ますますの飛躍が期待されているプロデューサーなので、チェックしておいて損はない。
MOMO “mochA” N.
自らシンガーとしても活動しているだけあり、アーティストの目線に立った繊細な心情描写を得意とする女流クリエイター。主にリリシストとしての活動が目立つが、恋愛
鼓舞/葛藤と表現のバリエーションはどこまでも豊かで、その率直な内容に思わず心を抉られることもしばしば。本作では曲調ともにセクシーな装いで挑んだ「Chocolate」、小気味よい譜割りで突き進む「Spellbound」など三曲の歌詞を担当。サウンドに比べるといささか地味な作業こそすれ、大知の方向性をユニークに汲み上げた彼女の言葉を見渡せば最後、イチコロは秒読みだ。
三浦大知 『The Entertainer』
2013年11月20日発売
<収録曲>
1. Can You See Our Flag Wavin’ In The Sky?
2. I’m On Fire
3. Elevator
4. Spellbound
5. Baby Just Time
6. Chocolate
7. GO FOR IT
8. Gotta Be You
9. Two Hearts
10. Blow You Away!
11. Right Now
12. interlude
13. Listen To My Heatbeat
14. all converge on “the one”