コラム

May J.の模索 〜R&Bシンガーとしてのデビューからアナ雪歌姫に君臨するまでの軌跡を振り返る〜

May J.の快進撃が止まらない。日本語版主題歌「Let It Go 〜ありのままで〜」を歌う映画『アナと雪の女王』が、あれよあれよと興収230億円超えという空前の大ヒットを記録。同作の人気を受けて、「Let It〜」を収録したカヴァー・アルバム『Heartful Song Covers』も発売から3ヶ月が経過した今なお好調なセールスを続けており、テレビ番組をはじめとするメディアでは日夜引っ張りだこの状態が続いている。

今や”カヴァーの女王”や”カラオケの歌姫”といった肩書きで親しまれるMay J.だが、今回のブレイクに至るまでの道のりは決して平坦と言えるものではなかった。デビューからの8年間で、May J.がおこなってきた試行錯誤は数知れず。中には、もっと順当な評価を受けるべき余地を残しながら世間的に埋もれてしまっている作品も多く存在し、話題性ばかりが先行している現状が少しばかり口惜しくもある。そこで今回は、May J.の長きに渡るキャリアをいくつかのセクションに分け、苦労人ならではの模索の変遷にあらためてスポットを当てる。面目躍如の今を生きるMay J.に一段と踏み込むきっかけにしてもらえれば幸いだ。

第一期:2006年〜2008年

2006年、May J.は大物アーティストが多数在籍するソニー系レーベルからメジャーデビューを果たした。当時の触れ込みは、かのジャネット・ジャクソンやビヨンセよろしく”歌って踊れるR&Bシンガー”。今でも折に触れてR&Bに対する思いを各所で語っていることから、キャリアの発端にして彼女のバックボーンを示した時期であるように思う。実質のデビュー曲である「MY GIRLS」ではシェリル・リンのディスコ・クラシック「Got To Be Real」をキャッチーにサンプリングし、またブラック・ミュージックとの親和をアピールすべく、ZeebraやRHYMESTERといった重鎮ラッパーたちとの共演も早い段階で経験している。バックアップするクリエイターにもシーンの実力派ばかりを揃え、とりわけDaisuke “D.I” Imaiが手がけた「DO tha’ DO tha’」ではスリリングなアップ・サウンドのもと、切れのあるダンスも披露。今でこそ縦横無尽に踊る彼女を見る機会も減ってしまったが、何を隠そう、アグレッシヴな腰使いは彼女の堂々たるアイデンティティに数えられる。

こうして若くして気高いスタイルを築き上げ、時を同じくして活動していたR&Bシンガーの中でもひときわ目立つ存在だったMay J.。だが残念なことにセールス的にはヒットに恵まれず、初のフル・アルバム『Baby Girl』発表後まもなくしてソニーとのタッグが終了。ソロとしては幾ばくかの潜伏期間入りを余儀なくされてしまう。

第二期:2009年〜2010年

およそ1年のインターバルを経て、avexのクラブ・ミュージック特化レーベルrhythm zoneに移籍したMay J.は、心機一転となるアルバム『FAMILY』を2009年5月に発表。リード・トラックである「Garden feat. DJ KAORI, Diggy-MO’, クレンチ&ブリスタ」がSugar Soulのヒット曲のリメイクとして話題を呼んだこともあり、自身初となるオリコンTOP10入りの快挙を果たす。また、同作のヒットを機により大衆に適う音楽を意識し始め、2010年2月発表の3rdアルバム『for you』では早くもそのポピュラーな路線が確立されている。R&Bを艶っぽく歌い上げるMay J.が好きだった者としては一抹の寂しさに苛まれることもあったが、巷を席巻する5年も前の時点でカヴァーの手応えを掴んでいた事実を鑑みると、現在の器用な活動への布石を培った時期とも捉えることができ、今思えばなかなか無下にし難い。

第三期:2011年〜2013年前半

avexにシフトしてからというもの、年に一枚以上のコンスタントなペースでアルバム・リリースを続けているMay J.。特に2011年に発表された4thフルアルバム『Colors』以降は、第一期に顕著だったダンス・ミュージック寄りの作風も再び頭をもたげ始めるなど、イメージ・バランスの調整が強く見て取れた。言い替えるなら、アーティストとしての安定感を錬磨していた時期だったように感じる。それと同時にイノベーティブな試みにも引き続き余念がなく、「FYI(『Colors』収録)」のような一風変わったアップ・ナンバーの導入や、「君のとなりに(『同』収録/久保田利伸提供)「私がカバーガール(『Brave』収録/小西康陽提供)」といったアーティスティックな名うてとのコラボレーション、さらには華原朋美の「I’m Proud(『SECRET DIARY』収録)」をカヴァーとしては「Garden」以来に大々的に打ち出すなど、チャレンジできることにはことごとく立ち向かっているかのような縦横無尽ぶりであった。

『SECRET〜』を生み落とした2012年、ブレイクのきっかけにもなったテレビ番組「関ジャニの仕分け∞」に初出演。カラオケ得点対決を目の当たりにし、初めてMay J.の存在をインプットした人も多いことだろう。この頃からMay J.のカヴァー熱は本格的に加速していき、ベスト・アルバムのリリースによってキャリアを一区切りした2013年初頭あたりを前後して、ご存じカヴァー主軸の期間、すなわち第四期に突入している。以降現在に至るまで、お茶の間をも巻き込むディーヴァとしてヒット街道を邁進中である。

このようにMay J.のアプローチは、時代と寄り添うように足掛け8年にわたって多彩な移ろいを見せてきた。節操のなさを憂慮される面もあるものの、通過点を越えるごとにキャパシティを拡張してきたMay J.には、ここに来てかなりの期待を寄せ始めている。結局のところMay J.自身にとってどの方針が正解なのか、それは分からない。ただ商業的な成功を手にした今、本当の正念場はまさしくここから幕を開けると言ってもいい。第四期以降に獲得したファンを次のフェーズへいざなうためにも、May J.が今回の”絶頂期”といかにして対峙し、消化していくのか。求められる音楽から自ら求める音楽へ移行することはそう容易ではないが、筆者としてはムーヴメント化しつつあるカヴァー路線を上手に纏いつつ、肝となるオリジナリティを高める作業にも心して取りかかってもらいたい。

次なるステージは、8月13日に発表されるおよそ2年ぶりのシングル「本当の恋」。久方ぶりに新曲を多く収録しているとあって、本作がMay J.の新たな試金石となりそうだ。

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